引きこもり令嬢の契約婚約
「えっと、……エリオット様は、建築美術のどのあたりに心ひかれたのですか?」

 セアラは慌てて話を変える。これ以上、王子様仕草を見せつけられては、キャパオーバーになってしまう。

「そうだね。もともと城で暮らしているから、よく目についてはいたんだけど、アンガスっていうオズボーン国出身のすごい建築家がいてね……」

 アンガスが、まだ無名だったころに手掛けた教会が、オズボーン国との国境にあるのだそうだ。一目でその教会に目を奪われたエリオットは、素晴らしい建物をもっと国中に増やしたいと思っているらしい。

(それにしても……すっごい話すわね)

 セアラのエリオットへの印象は、『いつも穏やかに微笑んでいる人』だった。それが今は、目を輝かせながらはしゃいでいるようにも見える。

(好きなものには雄弁になるタイプね)

 雲の上の存在と思っていた王太子だが、徐々に、身近なひとりの男の人に見えてきた。
 セアラはなんとなく相槌を打ち続けた。
 正直、途中からわからない名前が出てきて、理解は半分くらいしかできていないけど、あまりに楽しそうなので、中断させるのは悪い気がしたのだ。

「ああ、好きなことを話すのはやっぱり楽しいな」

 満足げな顔を見て、不思議と充足感がある。

「そうですね。私も、薬草の話をするのは好きです」

「へぇ。じゃあ今度は君の話を聞かせてよ」

「ええ。でももう、劇が始まりますよ」

 舞台の幕が上がり、会場から拍手が湧きおこる。
 エリオットは耳元で「じゃあ、次に会う時に」と言うと、前を向いた。
 さらりと、次に会う約束をするあたりそつがない。

(今まで女性との噂って聞いたことがなかったけれど、慣れているのかしら)

 ちらりとエリオットを横目で見れば、彼は何も気にした様子もなく、舞台に視線を向けている。
 その後は、セアラも視線を舞台に戻し、観劇を楽しんだ。
 聖獣が王女に恋をして加護を与えたものの、年頃となり運命の出会いを経験した王女が、恋と責務のさなかで揺れる姿を描いた歴史群像劇だ。
 史実をもとにした劇は、胸が熱くなるような展開と言葉選びで、すぐにセアラは夢中になってしまった。
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