引きこもり令嬢の契約婚約

ホワイティとの思い出

 劇場の外に出ると、馬車がやってくるところだった。どうやら従業員が、連絡を回してくれていたらしい。
 近づいてくる馬車を見ていると、街路樹の高い位置に白いフクロウが見えた。

「あれ、ホワイティ様……きゃっ」

 声を出した途端に強い風が吹く。今日はもともと風が強かったが、目を開けていられない突風だ。
 セアラが再び目を開けると、目の前にはエリオットの背中があった。どうやら風よけになってくれたようだ。

「大丈夫かい?」
「ありがとうございます。……風、収まりましたね」

 セアラは急いで先ほどの街路樹を見る。しかし、すでに白フクロウの姿はなかった。

「……見間違いだったのかしら」
「いや、あれはホワイティだよ。君は、ホワイティの姿も知っているんだね」

 エリオットの聖獣が白フクロウだというのはよく知られた話だ。しかし、その姿を実際に見た人間はそう多くない。まして引きこもりのセアラが知っているのは、意外な気がしたのだろう。

「実は昔、見たことがあるんです」
「昔?」
「領地にいた頃、疫病が広がって……」

 あれはセアラが十一歳の時。ひとりの鉱山労働者が倒れて熱を出した。その翌日から、多くの人が高熱と頭痛を訴え、苦しみだしたのだ。
 数日で完治するものもいたが、多くの人がどんどん体調を悪化させ、血を吐いたまま、帰らぬ人となった者もいた。

「原因が分からないまま、私と弟は屋敷に閉じ込められました。母はすでに体が弱っていて、万が一そんな病気にかかったら、すぐに死に至るだろうと」

 痛みを抑える薬草、熱を冷ます効果のある薬草。それらのありかを、セアラは知っている。だけど、外に出ることは許されなかった。
 屋敷の窓から空を見上げて、病が収束しますようにと祈るだけの日々。それは、セアラをひどく消耗させた。

(何にもできないことがこんなに辛いなんて)

 医者は街の人々にかかりきりとなり、しばらくは母の定期検診は休みにすると言ってきた。
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