引きこもり令嬢の契約婚約
「私は、何も……」
「でも、セアラ嬢の発案で畑に薬草を植えるようになったんだろう?」
「たまたまです。本当に偶然の……」
「偶然でも、シーグローヴ侯爵領に薬草畑があるのは、君の功績だ。結果として病を治したのはホワイティかもしれないけれど、彼女だって素材が無ければ薬は作れない」

 セアラは今、自分がどんな顔をしているのかわからなかった。ただ胸が熱く、顔も熱い。

「王家の人間として、感謝を」

 手を持ち上げられ、甲にキスをされる。その瞬間、セアラの頭は真っ白になり、何も考えられなくなった。

「か、帰ります。帰らせて」
「え?」
「も、もう、いっぱいいっぱいです、私」

 半泣きのセアラを驚きの眼差しで見つめつつ、エリオットは笑って馬車へとエスコートした。

「時計台も行こうかと思っていたんだけど、またの機会にしようか。今日は楽しかったよ。ありがとう」
「はい……」

 馬車の中で話したことは覚えていない。
 ただただ、手の甲にキスをされたあの瞬間が頭の中でリフレインしている。
 困ったのはそれが嫌じゃなくて、うれしかったことだ。

(私、契約婚約なんてできるのかな。なんだか話すたびに、エリオット様が雲の上の人じゃなくて、ひとりの男の人に見えてくる)

 恋になったら、困るのは自分なのに。
 だけど止めることもできないのが、恋の厄介なところだ。

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