引きこもり令嬢の契約婚約


 セアラを屋敷まで送り、城に戻った時には陽は暮れかかっていた。食事や入浴を済ませ、落ち着いたところで、エリオットはバルコニーに出て夜空を見上げる。

「ホワイティ。出ておいでよ」

 がさりと木が揺れる。白い羽が密集した葉の間からちらりと見えた。
 ケンカ中とはいえ、ホワイティがエリオットの傍を離れることはあまりない。ここ数日間、エリオットはずっと、ホワイティの気配を感じていたのだ。

 手を掲げると、ホワイティは一度そっぽを向いたものの、しばらくするとゆっくりと旋回して腕に止まった。しかしまだ怒っているのか、すぐにプイとそっぽを向く。

「会いたかったよ、ホワイティ。顔を見せてよ」
『甘いことを言っても駄目よ。私はまだ怒っているんだからね』
「怒っているんじゃなくてすねているんじゃないか」

 笑うエリオットの服を、ホワイティは不満げにつついた。

「心配しなくとも、今回の婚約は、形だけだよ。……父上には内緒だからね」

 声を潜めてそう言うと、ホワイティはピクリと耳を傾けた。

「彼女──セアラ嬢は僕のことが好きなんじゃなくて、君に会いたいから、婚約者役を引き受けてくれたんだ」
『私に?』

 ホワイティが首だけをエリオットの方に向ける。

「君のことを尊敬しているんだって。昔、疫病を収束してくれたことを感謝しているらしい」
『……そうなの』

 声のトーンが少しおとなしくなる。ホワイティはしばらく考え込んでいるのか黙っていたが、ふいに頭を上げた。

『でもっ、私は認めないわよ。エリオットの婚約者なんて』
「そう? でも僕は、君を好きだって言う人を嫌いにはなれないな。セアラ嬢はいい子だと思う。僕は好きだよ」

 ホワイティは不快を正直に態度に表し、喉の奥を鳴らした。
 分かってはいるのだ。エリオットが王太子である以上、いつかは妻を娶り、子をもうけなければならないことは。

『……私より好きなの?』

 小さな声でホワイティが尋ねる。
 エリオットは驚いたように息を飲んだが、その後ゆったりと笑った。

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