引きこもり令嬢の契約婚約

高位令嬢たちのお茶会


「おかえりなさいませ、お嬢様」

 観劇から帰ると、侍女のアビーが慌てた様子で近寄ってきた。
 彼女は昔からシーグローヴ侯爵家に仕える家族の娘で、二十一歳。年が近いので、セアラにとっては気安い相手だ。

「招待状が届いております」
「招待状……?」

 一応年頃の令嬢なので、招待状自体はもらうことはある。しかし、セアラは基本断っているので、最近ではめっきり届く招待状は減っていた。それなのに、誰からだろう。
 手紙を受け取り、思わず絶句する。

「お茶会のお誘い……? アドレイド様から?」
「お断わりしますか? エリオット様とのことでやっかまれているかもしれませんし……」

 あのお見合いお茶会の後、エリオットはキャンベル公爵家とオルセン侯爵家には、断りの連絡を入れたそうだ。だから一応、話しが進んでいるのはセアラだけということになる。

(あの調子では、絶対怒っているわよね)

 すごい剣幕でセアラを見下してきた姿を思い出すと胃が痛い。
 間違いなく逃げ出したい案件だ。嫌味を言われに行くようなものだし、なんなら婚約を辞退しとろまで言われそうな気がする。

(でも……)

 それでは駄目だと、心の奥から誰かが叫ぶ。

(どうしちゃったんだろう。私)

 劇場で感じた衝動。あれと同じ感覚が、今もする。
 変わらなければ駄目だと、自分を叱咤する自分がいる。

「いくわ。お返事を書きます」
「え?」

 アビーは驚いた様子でセアラをまじまじと見つめる。
 常ならばどんな誘いでも断っているのだから、その驚きは当然かもしれない。

「……別に、エリオット様の為ではないわ。ただ……」

 いつまでも引きこもってはいけない。
 そんな風に、セアラは思うようになった。同じように泣き虫だったというエリオットの今の姿を見ていたら、一生同じ場所で、たくさんのことから目をそらして、誰かの庇護を享受するだけで生きるのは、正しくないような気がしたのだ。

「あの……、この件、エリオット様に報告は……」
「しないわ。ただのお茶会だもの」

 とはいえ、不安は不安だ。アドレイドはあの気性だ。今回セアラだけが話を進めていることに不満があるに違いない。何を言われるのか考えれば、身がすくむような心地がする。

「……アビー。お付きの侍女としてついてきてもらってもいいかしら」

 不安が顔に出ていたのか、アビーは噴き出すのを堪えているような微妙な表情をしつつ、「もちろんです」と請け負ってくれた。

「……ありがとう」

 思いのほか快く受け入れられ、セアラは胸が温まるのを感じた。

< 41 / 233 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop