引きこもり令嬢の契約婚約
高位令嬢たちのお茶会
「おかえりなさいませ、お嬢様」
観劇から帰ると、侍女のアビーが慌てた様子で近寄ってきた。
彼女は昔からシーグローヴ侯爵家に仕える家族の娘で、二十一歳。年が近いので、セアラにとっては気安い相手だ。
「招待状が届いております」
「招待状……?」
一応年頃の令嬢なので、招待状自体はもらうことはある。しかし、セアラは基本断っているので、最近ではめっきり届く招待状は減っていた。それなのに、誰からだろう。
手紙を受け取り、思わず絶句する。
「お茶会のお誘い……? アドレイド様から?」
「お断わりしますか? エリオット様とのことでやっかまれているかもしれませんし……」
あのお見合いお茶会の後、エリオットはキャンベル公爵家とオルセン侯爵家には、断りの連絡を入れたそうだ。だから一応、話しが進んでいるのはセアラだけということになる。
(あの調子では、絶対怒っているわよね)
すごい剣幕でセアラを見下してきた姿を思い出すと胃が痛い。
間違いなく逃げ出したい案件だ。嫌味を言われに行くようなものだし、なんなら婚約を辞退しとろまで言われそうな気がする。
(でも……)
それでは駄目だと、心の奥から誰かが叫ぶ。
(どうしちゃったんだろう。私)
劇場で感じた衝動。あれと同じ感覚が、今もする。
変わらなければ駄目だと、自分を叱咤する自分がいる。
「いくわ。お返事を書きます」
「え?」
アビーは驚いた様子でセアラをまじまじと見つめる。
常ならばどんな誘いでも断っているのだから、その驚きは当然かもしれない。
「……別に、エリオット様の為ではないわ。ただ……」
いつまでも引きこもってはいけない。
そんな風に、セアラは思うようになった。同じように泣き虫だったというエリオットの今の姿を見ていたら、一生同じ場所で、たくさんのことから目をそらして、誰かの庇護を享受するだけで生きるのは、正しくないような気がしたのだ。
「あの……、この件、エリオット様に報告は……」
「しないわ。ただのお茶会だもの」
とはいえ、不安は不安だ。アドレイドはあの気性だ。今回セアラだけが話を進めていることに不満があるに違いない。何を言われるのか考えれば、身がすくむような心地がする。
「……アビー。お付きの侍女としてついてきてもらってもいいかしら」
不安が顔に出ていたのか、アビーは噴き出すのを堪えているような微妙な表情をしつつ、「もちろんです」と請け負ってくれた。
「……ありがとう」
思いのほか快く受け入れられ、セアラは胸が温まるのを感じた。