引きこもり令嬢の契約婚約

 アドレイドの屋敷は、セアラの家からそう遠くない。王都に住む王侯貴族は、王城にほど近い区画に家を建てるのが常だからだ。
 とはいえ、貴族令嬢は徒歩で向かうことはない。セアラは侯爵家の馬車に乗り、外を見ていた。

「あら?」 

 オルセン侯爵家の前にいた赤毛の騎士が、こちらをじっと見ている。

(誰かしら。知らない人だけど)

「もし……、こちらはシーグローヴ侯爵家の馬車ですか?」

 外で御者と話しているのが聞こえてくる。

「どうかしたのですか?」

 アビーが馬車の中から訪ねると、「なんでもありません!」と御者の声がして、馬車は再び走り出す。
 そしてほどなくして、キャンベル公爵家に到着した。
 迎えに来たのは、公爵家のメイドたちだ。

「お嬢様がお待ちしております。こちらへどうぞ」

 セアラはガチガチに緊張していた。キャンベル公爵家が裕福なのはもちろん知っていたが、飾り柱に金の家紋が装飾として施されていて、いたるところに高価そうな壺や美術品が飾られている。
 そして案内された部屋は、明るい陽が差し込む応接室だった。丸いテーブルに椅子がセットされていて、豪華な赤いドレスを着て微笑んでいる。

「ようこそいらっしゃいました。セアラ様」
「ご招待ありがとうございます。アドレイド様。あの、……こちら、その、お土産に……」

 アビーに持たせたローズマリーの鉢植えを渡す。

「あら。こちらはなあに?」
「ローズマリーというハーブです。肉料理などに使うと臭みをとってくれるんですが。香りが強く、飾ってもかわいい花ですので」
「まあ。こんな素朴なお花、初めていただきましたわ」

(やっぱり失敗だったか)

 そうかなと思いつつ、お呼ばれにはお土産を持っていくものだと気づいたのが出がけ寸前だったセアラにとって、他の選択肢もなかった。

(でも、我が家にあるハーブの鉢植えの中では一番育てやすいし、ちょうど花も見ごろだったんだけど)

 アドレイドはその鉢をメイドに受け取らせ、窓際に飾るように言う。
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