引きこもり令嬢の契約婚約
「私はまだ、あなたを認めたわけではありませんから」
別れ際、アドレイドはセアラだけに聞こえるように耳打ちした。
「はい」
実際に、認められるような人間ではないと思っているので、セアラは諾々とそれを受け入れる。
「……セアラ様、よろしかったら馬車に乗せていただけるかしら」
「え? でも……」
「実はね、私、護衛騎士に乗せられてここまで来たのよ」
確かに、シーグローヴ侯爵家の馬車が待ち構えている隣には、馬を引いた赤毛の騎士がいる。キャンベル公爵家に向かう途中で声をかけてきた騎士も赤毛だったから、同一人物である可能性は高い。
「……もしかして、私の馬車がキャンベル公爵家に向かうのが見えたから、来てくださったのですか?」
「念のため、レナルドに見張らせていたのよ。あ、レナルドというのは私の護衛騎士。あの男よ」
赤毛の騎士を指さしたので、やはりそうかと納得する。しかし、それはそれで新たな疑問が湧いてくるというものだ。
「どうして……そんなによくしてくれるんですか?」
「その話もしたいから、家にいらっしゃいと言っているの。さあ、私を乗せて頂戴な」
ソフィアはぐいぐいと話を引っ張っていく。セアラとしても、この状況を少しでも理解したいので、彼女を馬車に招き入れた。
「アビーは私の隣に乗って?」
「いえ、私は歩いて戻ります」
「いいえ。あなたも一緒にいらっしゃい。ひとりでは、セアラ様がおかわいそうでしょう」
アビーは恐縮しきっていて、かなり逃げ腰になっていたが、ソフィアがぴしりと言い放った為、一緒に馬車に乗り込んだ。小窓を開け、護衛騎士を指で呼びつける。
「レナルド、先に屋敷に戻ってお茶の席を準備するように言ってちょうだい」
「かしこまりました」
騎士は、ぺこりと頭を下げると走り出す。
(やっぱりかっこいいな。ソフィア様)
本来侯爵令嬢とはこういうものだ。人を使うことが当たり前で、常に毅然としている。
すごいと思うのと同時に、自分はこんな風にはなれないと思ってしまう。