引きこもり令嬢の契約婚約

正妃候補の多忙な日常

 正式に婚約式の日取りが決まると、セアラは急に忙しくなった。
 一日の予定に、正妃教育が詰め込まれるようになり、それ以外にもソフィアによる作法のチェック、ドレスの採寸などこまごまとした予定が入り、朝から晩まで忙しい。

「姉さま、今日も王城に行くの?」
「マイルズ。……ええ。いろいろと予定が立て込んでいね」
「そう。まあいいことか。あの姉さまが、外に出るなんてね。体にだけ気を付けて」
「ありがとう」

 弟から感心されるくらいには、セアラの生活は激変していた。
 忙しさを理由に、アドレイドをはじめとしたセアラに不満のある人からの茶会の誘いを断ることはできるけれど、これまで引きこもりだったセアラにとって、毎日出かけるのは非常にストレスだ。

「ああー、やっぱりやめればよかった。私には無理よ」

 シーグローヴ侯爵家の庭園で、薬草畑をいじりながらセアラは泣きごとをこぼす。
 花壇の一角に作った薬草畑は、セアラの癒しだ。忙しくなってからは世話を庭師に頼んでいるが、それより前はすべて自分で世話をしていた。

「お嬢様。今日はお時間あるのですか」
「いつも世話を任せてごめんね。今日は午後からなの」
「大変ですなぁ」

 五十代の庭師は、人好きのする顔で微笑む。

「最近、モグラが入り込んでいましてね」

 庭師の視線の先には、モグラ塚と呼ばれる土の盛り上がりがある。

「そうなの? 花壇に影響はある?」
「モグラは農作物を食べるわけじゃないんで、根が傷つけられて痛むくらいですかね。今のところ枯れた花とかはないですが」

 領地の薬草畑でも、モグラ塚は結構あった。足がはまったと言っていた子供たちもいたはずだ。

「領地で出た時は、モグラの通り道を塞いでいたら、いつの間にかいなくなっていたって言っていたわよ。駆除したほうがいいのかしら」
「まあ、しばらく様子を見ますかねぇ」
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