引きこもり令嬢の契約婚約
 腰を叩きながら歩いていく庭師を横目に、セアラは庭を眺める。

(落ち着く……)

 蝶々がひらりひらりと舞い、背の高い花を揺らす。人の中ですり減った心が、戻ってくるのを感じる。
 目をつぶって、ひと時の幸せを感じていると、それを打ち破るようなアビーの足音が聞こえた。

「お嬢様、どこですか?」
「ここよ。庭」
「お、王太子殿下がお越しです!」
「え?」

(今日も午後から城に行くというのに、どうしてわざわざ?)

 驚きで二の句が継げずにいるセアラの前に、本当にエリオットがやってくる。

「やあ。急に来てごめん」
「な、なにかあったのですか?」
「ううん。そのままでいい。邪魔しに来たわけじゃないんだ」

(じゃあ何しに?)

 その疑問を言葉にするのは不敬な気がして、セアラは黙った。

「アビー、応接室にお通しして」
「いいや、ここでいい。悪いけど、ふたりにしてくれるかな。呼ぶまで、君は下がっていて」

 エリオットに言われ、アビーはセアラの方を気にしながら、戻っていく。
 エリオットはセアラに近寄ると、意味深な笑顔を向けてきた。

「ふたりで……ってことは、何か内密な話ですか?」
「そうだね。最近忙しくしているだろう。君に契約違反だと思われていないか気になってね」
「それは……正直大変ですけど」
「愚痴があるなら聞くよ」

 ここで契約違反だと言ったらどうなるのだろう。エリオットは、セアラを解放してくれるのだろうか。
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