引きこもり令嬢の契約婚約
 セアラはそそくさと父の傍に行く。申し訳ないけれどほっともした。エリオットの傍にいると心臓がうるさくなりすぎる。

「では殿下、失礼いたします」
「ああ。またね、セアラ」
「は、はい」

 呼び名の変化に耳ざとく気づく父は、にやにやしながらセアラを見る。

(そういうんじゃないのに……)
 セアラは恥ずかしくなってしまって、何も言い返せずにただ馬車へと急いだ。

 家に帰ると、マイルズが落ち込んだ様子で食堂の椅子に座っている。

「マイルズ、ただいま。……どうしたの? 元気がない?」

 彼は顔を上げると、力なく笑顔を作った。

「腹が減ったんだよ。どうして今日はこんなに帰りが遅いのさ」

 マイルズとセアラはいつも一緒に食事をしている。
遅くなったのに待っていてくれたのかと思うと、なんだかうれしくなるものだ。

「待たせてごめんね。お父様と一緒に帰ってきたのよ。久しぶりにみんなで食事にしましょう」

 セアラはこの時、マイルズがどことなく元気がないのは、空腹のせいだとだけ思っていた。
 自分のあずかり知らぬところで、彼が追い詰められていることなど、まったく気づかなかったのだ。
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