引きこもり令嬢の契約婚約
「……私も、頑張ります」
今の時点で、できるだけの笑顔を。
そう思って笑ってみたけれど、頬が引きつっているのが自分でわかる。
「セアラ……」
エリオットは少し驚いたように目を丸くして、その後、顔を近づけてきた。
(え?)
驚きすぎて、体が硬直する。近すぎて顔がよく見えなくて、どうしたらいいのかわからなくなって目をつぶった。
額に、小さな熱。
「緊張しないおまじないだよ」
視界いっぱいに、エリオットの顔が見える。頬が熱くて、きっと顔は真っ赤だろうと思う。
「ずっと隣にいるからね」
軽くウィンクをして微笑まれれば、胸の鼓動は高鳴るばかりだ。
(こんなの無理。ずるい)
どうして、好きにならずにいられるというのだろう。
見つめ合って照れている二人を、侍女たちはほほえましく見つめていた。しかし時間は刻々と過ぎており、その空間を切り裂くひと言をついに言わなければいけなくなってしまった。
「お二人とも、そろそろお時間です」
「ああ。そうだね。さあ、行こうか」
エリオットに手を引かれて、セアラは歩き出す。どちらかといえば華奢だと思っていたエリオットの背中は広く、思ったよりずっと逞しい。
婚約式が行われる部屋の扉の前で、セアラは一度深呼吸した。
「さあ、入るよ」
進んでしまったら戻れない。でも今は、進みたいとも思っている。
終わりがあるとしても、このひと時、彼の隣にいられる世界へ。