引きこもり令嬢の契約婚約

「はい」

 両脇から扉が開かれ、多くの拍手がセアラとエリオットを包む。
 正面に、神父様と、両脇に国王陛下と父と弟。
 そして家臣たちが、ずらりと揃っていた。
 そこにはオルセン侯爵や、キャンベル公爵の姿もある。

(緊張する……けど)

 せめて前を向いて、今だけは彼の信頼に応えたい。
 進行は神父様が行うので、セアラは神妙な表情で立っていればいいだけだ。
 ただ、お歴々の方々の視線が自分に注がれていると思うと、体が震えてきてしまうのだが。

「では、エリオット・オールブライドと、セアラ・シーグローヴの婚約をここに宣言いたします。ふたりとも、署名を」
「はい」

 誓約書に名前を記入する。若干、字が震えていたけれど、エリオットが右手を添えてくれたことで、何とか書けた。
 羽ペンを戻そうとしたところで、震えた手が書面台にぶつかり、落としてしまった。床の一部に黒のインクが付く。

「す、すみません」

 周囲のざわめきが落胆の声のように思え、セアラは頭が真っ白になる。視界の隅に心配顔の父と弟が映り、途端に悲しくなった。

(やってしまったわ)

 拾う為にかがもうとした瞬間、エリオットに腕を押さえられる。

「大丈夫」
「ほほ、緊張なさっておられますな」

 神父はゆったりとほほ笑み、ペンを拾うと、前を向くよう指示をした。

「さあ、若いお二人に、皆さま拍手を」

 神父の声に合わせて、会場内に拍手が響き渡る。和やかな空気で、つつがなく婚約式を終えそうなタイミングだ。

「おや、聖獣様の祝福がございませんなぁ」

 男性の大きな声がした。一気に周囲がざわめき始める。
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