引きこもり令嬢の契約婚約


 うつむいたまま結構な距離を歩き、連れてこられたのは、ひとつの部屋だった。
 小さな肖像画が壁にかけられ、机と、衝立の奥にはベッドもある。
 どう見ても誰かの私室だ。

「えっ、ここは……」
「僕の部屋。大丈夫、扉は開けておくから。……邪魔の入らないところに来たかったんだよ」

 扉を三十センチほど開けたままにし、エリオットは真面目な顔になる。
 促されて椅子に腰かけると、エリオットはセアラの前に跪き、手を握る。
 王太子の顔を見下ろすことなど普通はない。セアラは驚きすぎて言葉が出なかった。

「儀式中に、聖獣が祝福することは想定されていない。今回のことは、誰かが君に難癖をつけるために声を上げたのだろうと思う」
「本当ですか? わざわざ言われるなんて、国王様の時はあったのでは……」

 年配の重鎮たちは、ルパード王の婚約も婚礼も見てきたはずだ。その彼らに声を上げられれば、やはり心配にはなってしまう。

「違うよ。父上が否定していただろう。結婚式ならともかく、婚約式の時点で祝福などされなくとも問題ない」

 握る手の力が、少しだけ強くなる。
 かすれたような声の後に、見えたのは、すねたような彼の表情。

「……エリオット様?」 
「それともセアラは、この契約を辞めたくなったの?」

(え……。かわ……)

 すね顔は、予想以上にかわいらしい。
 火が付いたように顔が熱くなる。ドキドキして心臓が暴れ出していた。

「な、な」
「それは……困るよ」

 憂いを含んだ表情は妙に色気があって、セアラは直視に耐え兼ね、目をそらした。
 見ていては心臓がもたない。
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