引きこもり令嬢の契約婚約

相応しいのは誰か

 正式にエリオットの婚約者となったセアラは、多忙な日々が続いていた。

「はあ……癒されるぅ」

 そんな中、セアラの日課は庭の草花のお世話だ。
 土に触れているだけで元気が湧いてくる気がするので、気が付くと庭に出てしまっている。
 いつも優し気な庭師も、最近はやれやれと言った様子でセアラを見ている。

「お嬢様、そろそろ時間じゃありませんか」
「あっ、そうだったわ。行ってきます」
「お嬢様! 登城用のドレスに着替えてください!」

 バタバタとあわただしく過ぎていく毎日。
 引きこもりの頃とは真逆の生活になってしまったが、思ったよりも動けている。
 人は慣れる生き物なのだなと、こんな時に実感するのだ。

 王城につくと、最近はエリオットがわざわざ出迎えをしてくれる。

「あの、毎回出てこられなくても」
「婚約者が登城するのに、顔も見られないなんてつまらないじゃないか」

 どこまでが本気なのかまったくわからない。
 だけど、エリオットの隣を歩くことも慣れてきた。一年後に離れることが、寂しくなってしまうくらいには。

「おや、今日もご一緒ですか」
「これは……キャンベル公爵」

 立ち止まったエリオットの脇で、セアラは淑女の礼をする。
 先日のこともあるし、アデライド嬢のこともある。できるだけおとなしくしていたほうがいいというのがセアラの判断だ。

「殿下は少し過保護なのではないですかな。セアラ嬢は物覚えもよく優秀だと聞く。もう部屋までの道順など覚えたでしょう?」
「はは、無粋だな、公爵。僕がセアラに会いたいだけだとは思わないのかい?」
「執務をおろそかにするのは感心しませんぞ。ただでさえ、殿下ご提案の事業は金ばかり食うものが多いですし」

 不穏な会話にセアラはちらりとエリオットを見上げる。笑顔だが、なんとなく怒っているようにも見える。

「そういった話は、執務室で聞こう」
「おや、お妃さまとなられる方には聞かせられませんか」

 はは、と乾いた笑いをこぼし、「では先に行っておりますな」と去っていく。

「まったく……王の子といっても、国政に与えられる力はわずかなものさ。大臣たちを説得できなければ、実行に移すことはできないからね」
「そうなのですね」
「じゃあ、今日も頑張って。僕も頑張ってくるから」

 エリオットの背中を見ていると、わずかに不安がよぎる。

(……気弱になっていちゃだめね)

 頬を軽く叩いて気分を入れ替え、セアラは授業に向かった。
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