引きこもり令嬢の契約婚約
 一通り今日の授業が終わり、先生から講評をいただいているときのことだ。

「失礼、セアラ嬢はいるかな」

 入ってきたのはキャンベル公爵だ。まさかこんなところまで来るとはと、セアラは驚きすぎて一瞬思考が止まった。

「これは、公爵様。わざわざこのようなところまで」
「いやいや、君に少し話があってね」

 セアラは立ち上がって礼をした後、キャンベル公爵がちらりと先生を見る。

「少し邪魔してもいいかね」
「構いませんが、私はお邪魔ですか?」
「いやいや、先生も一緒に聞いてもらおう。ふたりきりになって、エリオット殿下に恨まれては困りますからな」

 キャンベル公爵は既婚者なので、娘ほど年の離れた独身女性といても変な噂になることはないだろうが、セアラとしても、こんなに威圧感のある人とふたりになるのは嫌だ。

「あの……どのようなご用件で」
「いやなに、君は娘が招待しているお茶会を断り続けいるそうではないか」

 最初のお茶会の後、アドレイド嬢からの誘いは二度ほどある。確かにいずれも断りの連絡をしていた。

「申し訳ありません。このように毎日城に詰めておりまして。なかなかお伺いする余裕がなく……」
「しかしセアラ嬢は優秀だと聞いている。一日くらい休むことはできないのかね。なあ、先生」
「そうですね。順調に課題は進めていますから、一日くらい休まれても大丈夫ですが」

 先生が一緒にいることの弊害が、こんなところで出るとは。
 これでは、多忙を理由に断るのも難しい。

「ではこれが招待状だ。今度こそ出席していただけると娘にも伝えておくから、よろしくな」

 そう言うと、キャンベル公爵は高笑いをしながら部屋を出ていった。

(……断れなくなってしまったわ)

 途方に暮れるセアラに、先生は同情めいた表情で微笑む。

「気まずいのはわかりますけど、キャンベル公爵家のご令嬢との交流は今後避けられませんよ。早い段階で確執はなくしたほうがいいと思います」

 先生の言うことももっともだ。
 数少ない公爵家と侯爵家の令嬢が、まったく交流がないことの方がおかしいのだから。

「あなたなら、立派な王太子妃になれますよ。苦手なことにも、きちんと向き合ってください」
「……はい。頑張ります」

 先生の言葉は善意に満ちている。実際、王太子の婚約者という立場で、社交から逃げることなどできない。
 セアラは諦め、アドレイドの誘いを受けることにした。

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