引きこもり令嬢の契約婚約


 本日の授業をすべて終えて、馬車の方に向かう。
 アビーは、御者にセアラが出てくることを知らせるために先に出ているので、今はひとりだ。先の廊下から聞き覚えのある声がして、にセアラは足を止めた。

「待て、ブレンダン」

 ブレンダンは父の名だ。家名で呼ばれる方が多い父を名前で呼ぶのは誰かと気になって顔を向ければ、そこにいたのはオルセン侯爵だった。

「なんだ。アドルフ」

 セアラは思わず柱の陰に隠れる。昔から仲が悪く、常に言い合いしているふたりだ。名前で呼び合う姿を見るのは初めてだった。

「話がある。お前は本当にセアラ嬢を王太子妃にするつもりか」
「もちろん。殿下は理想的な相手だろう。威圧感がなく、聡明で、性格もお優しい」

 言い返し、立ち去ろうとする父を、オルセン侯爵の手が止めた。

「だが一国の王になられるお方だ。支える立場の妻に求められているものは聡明さと冷静さ。お前の娘に、冷静さがあるとは思えん」
「失礼だな」
「否定できるのか」

 心臓の音がひどく大きく聞こえる。自然と呼吸が浅くなり、セアラは気配を消すのに一苦労だ。

「セアラは賢く、芯のある娘だ」
「だが、引きこもりだ。人前に立つのは苦手だろう」
「それは……」
「ブレンダン。私は嫉妬ややっかみでこんなことを言っているわけじゃない。適性の話をしている」

 父は神妙な表情となり、オルセン侯爵と向きなおる。

「……エリオット様の聖獣は薬師フクロウだ。その点でも、薬師になりたいセアラとは相性がいいと思うが」
「殿下や聖獣とだけ相性が良くても、王太子妃は務まらんと言っている。王族の結婚に、愛など不要だ。お前は昔からそうだな。気が優しすぎる。……キャンベル公爵と我々は同年代だが、お前だけ出世が遅れているのは、奥方の看病で領地に引きこもっていた時期があるからじゃないか」
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