引きこもり令嬢の契約婚約


 それからもいつものように、セアラの正妃教育は続く。
 登城すれば、エリオットが迎えに来てくれて、座学の時間と作法の時間をこなして帰る日々だ。

「今度、キャンベル公爵家の茶会に呼ばれたんだって?」

 誰から聞いたのか、エリオットが突然そんなことを言い出した。

「ええ。先生もいる場で、キャンベル公爵様が提案されて……。正妃教育も進んできたので、一日くらい休んでもいいと先生に言っていただいて」
「断りづらくなったんだ? だから? 最近元気がないよね」

 普通にしているつもりだったが、エリオットは目ざとくセアラの変化に気づいているらしい。

「大丈夫です。ちょっと緊張しているだけですし。その、……社交も大事だと、今は分かっていますから」

 強がって笑ってみるも、エリオットの表情は心配そうだ。

「頑張ってくれるのはうれしいけど、僕には本心を言ってくれて構わないよ?」

(……これは間違いなくばれているわ)

 本心では不安だ。不安しかない。先日のオルセン侯爵の話を聞いてから、自分の行動が誰かの評判を傷つけているのではないかとすごく怖くなっていた。
 だからと言って、逃げていても糾弾されるだけだろう。その立場に、もう立ってしまった。

「大丈夫です。あ、エリオット様、もう公務のお時間では?」
「……うん。ねぇ、今日の帰りは僕が送るよ。終わったら待っていてくれるかい?」

 セアラは静かに首を振る。

「今日はソフィア様とお約束をしているので」
「……そうか。残念だな」

 エリオットが部屋を出ていってから、大きく息を吐きだす。
 ソフィアと約束があるなんて嘘だ。セアラはポーカーフェイスが苦手なので、あまり長い時間一緒にいると、動揺や落ち込んでいるのがばれてしまう。

(でも、ずっとこんな風に避けていたら、変に思われるわ)

 何とかしなければならない。でもどうすればいいのかわからない。
 セアラは教室の窓から、外を見上げる。

「ホワイティ様。こんな時って、どうすればいいんでしょうね」

 カサカサと葉が揺れる。しかしホワイティが姿を現すことはない。
 ホワイティに会いたいというただそれだけの願望から始まったこの関係を、このまま維持していいのだろうか。
 セアラの脳裏には、そんな考えがもたげていた。

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