引きこもり令嬢の契約婚約
セアラの変化に気づいたのは、エリオットだけではない。
「今日は全然集中しておられないのね」
作法の時間に、ソフィアがぽそりと言う。
「す、すみません」
「お疲れなのかしら。少し根を詰めすぎたかしらね」
ソフィアの視線が痛い。様子がおかしいことには気づかれているのだろう。こんなわずかな時間のポーカーフェイスさえ、自分にはできないのだと思うと情けなくなる。
(ソフィア様だって、私の為に力を尽くしてくれているのに)
泣き言を言ったら、不快にさせてしまうのではないか。
そう思うと相談する気持ちもしぼんでしまう。
考えれば考えるほど、暗い穴の中に入り込んでいるみたいだ。セアラはどう身動きを取ったらいいのか全然わからない。
「……今日はここまでにしましょう?」
「え……でも」
「キャンベル公爵家にお呼ばれしたって聞いたわ。残りの時間はその対策を練りましょう。緊張しなくても、もう正式にエリオット様の婚約者なのだし、立場的には同等か、あなたが上でしょう。あまり怯える必要はないわ」
「そういえば、私、ソフィア様にご相談があるのです」
「なにかしら?」
「お土産には……いったい何がいいでしょうか」
前回の失敗の話をすると、ソフィアは噴き出した。
「は、鉢植えを? まあ、珍しいものを持っていったわね」
「……やっぱり変ですか」
「そうね。一般的ではないわ。でも、あなたの立場なら、それを流行に変えることもできる。気にすることはないわよ」
その発想はなかった。上に立つ者の思考ができるソフィアに、セアラは感嘆の息を漏らす。
「無難なところでよければ、教えてあげるわ。王都の三番街にある菓子店で、最近人気なのがチョコレートよ。苦くて甘くて癖になるの。甘さに種類があるんだけど、アドレイド様は確か甘い方が好きだったはずよ」
「ソフィア様、個人の好みまで覚えているのですか?」
「有力貴族のは、ね。相手の対抗心を崩すのに、とても有用だから」
「はー。すごい……」
心底そう思う。今までセアラが気にしたことも無かったことを、彼女はずっと必要だと認識してきたのだ。
(私が、ソフィア様のようになれる? 頑張っても……さすがに無理じゃない?)
「セアラ様? どうかした?」
「えっ。……いいえ。早速今日の帰りに寄ってみます」
ソフィアはもの言いたげにセアラを見つめたが、それ以上追及はしてこなかった。
エリオットにも会わないよう、そそくさと城を出たセアラを、アビーさえも不審そうな表情で見つめていたのだった。
「今日は全然集中しておられないのね」
作法の時間に、ソフィアがぽそりと言う。
「す、すみません」
「お疲れなのかしら。少し根を詰めすぎたかしらね」
ソフィアの視線が痛い。様子がおかしいことには気づかれているのだろう。こんなわずかな時間のポーカーフェイスさえ、自分にはできないのだと思うと情けなくなる。
(ソフィア様だって、私の為に力を尽くしてくれているのに)
泣き言を言ったら、不快にさせてしまうのではないか。
そう思うと相談する気持ちもしぼんでしまう。
考えれば考えるほど、暗い穴の中に入り込んでいるみたいだ。セアラはどう身動きを取ったらいいのか全然わからない。
「……今日はここまでにしましょう?」
「え……でも」
「キャンベル公爵家にお呼ばれしたって聞いたわ。残りの時間はその対策を練りましょう。緊張しなくても、もう正式にエリオット様の婚約者なのだし、立場的には同等か、あなたが上でしょう。あまり怯える必要はないわ」
「そういえば、私、ソフィア様にご相談があるのです」
「なにかしら?」
「お土産には……いったい何がいいでしょうか」
前回の失敗の話をすると、ソフィアは噴き出した。
「は、鉢植えを? まあ、珍しいものを持っていったわね」
「……やっぱり変ですか」
「そうね。一般的ではないわ。でも、あなたの立場なら、それを流行に変えることもできる。気にすることはないわよ」
その発想はなかった。上に立つ者の思考ができるソフィアに、セアラは感嘆の息を漏らす。
「無難なところでよければ、教えてあげるわ。王都の三番街にある菓子店で、最近人気なのがチョコレートよ。苦くて甘くて癖になるの。甘さに種類があるんだけど、アドレイド様は確か甘い方が好きだったはずよ」
「ソフィア様、個人の好みまで覚えているのですか?」
「有力貴族のは、ね。相手の対抗心を崩すのに、とても有用だから」
「はー。すごい……」
心底そう思う。今までセアラが気にしたことも無かったことを、彼女はずっと必要だと認識してきたのだ。
(私が、ソフィア様のようになれる? 頑張っても……さすがに無理じゃない?)
「セアラ様? どうかした?」
「えっ。……いいえ。早速今日の帰りに寄ってみます」
ソフィアはもの言いたげにセアラを見つめたが、それ以上追及はしてこなかった。
エリオットにも会わないよう、そそくさと城を出たセアラを、アビーさえも不審そうな表情で見つめていたのだった。