引きこもり令嬢の契約婚約


 キャンベル公爵家は、二代前に王家から派生した家系だ。
 現当主、グラントリー・キャンベルの祖父は当時の王弟であり、聖獣の加護を得ていた。
 少年だったグラントリーは、いつも祖父を見守る猫の聖獣を羨ましく思っていた。
 聖獣の言葉は加護を与えられた王族以外にはわからず、祖父と猫だけで通じ合っている姿はどこか神聖で、グラントリー少年が憧れるのは当然だったともいえた。

 祖父が死んだあと、猫の聖獣は姿を消した。おそらくはルングレン山に戻っていったのだろう。
 聖獣の消えた屋敷は、温かいともしびを失ったように、無機質に見えた。

 グラントリーはもう一度、身内から王族を生み出したかった。女兄弟か娘、どちらかが王家に嫁入りすれば、生まれてくる子は聖獣の加護を得られるはずだ。
 しかし、自身の姉、そして妹は現王からは選ばれず、娘もまたそうだ。

「……これが、シーグローヴ侯爵の娘が持ってきたという鉢植えか?」

 ローズマリーの鉢植え。今は花が落ち、天井に向かって葉が伸びているだけだ。葉をこすると、スーッとするような爽快な香りがある。

「まさか……な」
「え? どうしたの、お父様」

 アドライドの問いかけに、グラントリーは目をつぶる。

「お前から見て、セアラ嬢はどんな方だ」
「変わった人だわ。年齢だってふたつしか違わないのに、全然社交界でお見かけしなかったし。話をするのも苦手みたい。会話が途切れて、ほんと気を遣うのよね。あんな方が王太子妃になったら、社交界はめちゃくちゃよ」

 アデライドは、侍女に爪を磨かせながら、不満げに言う。

「そのうち辞退するって思っていたのに、まさか婚約式までしちゃうなんて。自分の至らなさをちゃんと自覚してもらわなきゃ。前は、ソフィア様が来たから失敗したのよ。今度こそ……」
「そうか。……そうだな。特別な時に飲ませるお茶があるだろう。あの茶葉の新しいものを、この間入荷したのだ。それをお出ししなさい。隣国でも希少で価値のあるものだ」
「高級品を見せつけてやるのね!」
「まあ、そんなところだ。家格にふさわしいものを用意せねばいかんからな」

 グラントリーはゆっくり歩くと部屋を出る。アデライドは父の態度を不審に思いながらも、やがて来るお茶会に思いを馳せた。

「そうよ。王太子妃にふさわしいのは誰か、きちんと教えてあげなくちゃね」

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