引きこもり令嬢の契約婚約
「……弟? マイルズがどうかしたのですか?」

 突然のマイルズの名前に、疑問に思って聞き返す。アドレイドは、目を細めて、口元を隠した。

「あら……ご存じなかった? あなたが婚約者に選ばれてから、大変なのよ? 学校でも、あなたとお近づきになりたいいろいろな令嬢から、お茶会を開いてほしいって頼まれて。でも彼、あなたが人見知りだからって全部断っていたの。それで反感を買ってしまってね。いろいろ……口さがなく陰口をたたかれていて」
「そんな……、そんなの知らなかった……」

 青くなって震えるセアラを見て、アドレイドは満足したように微笑む。

「では、あなたに気を使って内緒にしていたのね。……私は、仕方がないと思うわ。今まで社交界にも顔を出さなかった令嬢が、いきなりエリオット様の心をつかんだのよ。誰もが納得できるような方ならともかく、家柄だけのあなたが」
「……っ」

 反論が、思いつかなかった。だってその通りだったから。セアラ自身、王太子妃にふさわしいのは、ソフィアくらい教養と素養、そして自信を持った人物だと思っているから。

「あの……マイルズが、学校でどんなことになっているのか、詳しく教えていただけますか?」
「……聞いても辛いだけではなくて?」

 その言いぶりからは、とても楽観的な状況は想像つかない。思い返せば、マイルズが疲れた表情を見せるようになったのは、セアラの婚約が決まった頃からだ。

(私のせい……)

 胸がじくじくと痛い。父だけでなく、マイルズにまで自分のせいで辛い思いをさせているのかと思うと、苦しくなってくる。

「どうすれば、王太子妃としてふさわしいと思ってもらえるでしょうか」

 終わったことは仕方がない。ならば現状を打破するためにできることはないかと考える。

「無理じゃないかしら。今まであなたが避けてきたこと。それらがすべて、必要だったと思わない? 行動したって今更だわ。女性たちの信頼を勝ち取るような行動をしてこなかった。これがすべてだと思う」

 アデライドの言うことは、極端ではあれ、間違いではないだろう。
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