引きこもり令嬢の契約婚約

別れの理由

 時計台は、公園の真ん中にある。
 現王ルパードに続き、エリオットも鳥系聖獣の加護を得たことを記念して、聖獣たちの止まり木になるよう建てられたと聞いている。一番上に鐘があり、日中の八時から夜の八時まで時間を知らせてくれる。
 この時計台の音を目安に生活する平民も多く、見た目だけでなく実益も兼ねた建物だ。

「……ふう」

 長い階段を上り、セアラは時計台の鐘のすぐ下にある展望用のスペースまで登った。ここからは、王都を一望できる。

「初めて来た。……すごい、綺麗」

 エリオットが見せたいと言っていた場所。ここも、彼の好きな場所なのだろうか。
 確かに彼の好みそうな風景だ。絵画になってもいいくらい美しい。

 アビーは展望スペースの入り口で待機している。距離があるので、表情は見られないだろう。今は人もおらず、セアラは深く息を吐いた。

(やっと……ひとりだわ)

 ようやく緊張から解放され、セアラは自分の気持ちを見つめ直した。

(最初は……本当にホワイティ様に会いたいだけだった。婚約だって、契約って言われたから、深く考えずに飛びついて……)

 だけど、エリオットと一緒にいるうちに、彼の内面を知るたびに、惹かれている自分に気づいた。彼は、引きこもりのセアラを馬鹿にすることもなかったし、偶然とはいえシーグローヴ侯爵領に薬草畑を作ったことを褒めてくれた。

(私が誰かの役に立っているって思えて……うれしかった)

 だから調子に乗ってしまったのかもしれない。
 ソフィアの後押しも得て、本当に彼の隣に立てる夢を見てしまった。

(実際は、私がどれだけ頑張ったって、なにひとつ成しえない。お父様もマイルズも、私のせいで馬鹿にされて……)

 自分が何か言われるのは、平気だ。セアラは、自分がたいそうな人間だなんて思っていないし、けなされる理由がわかるから。
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