引きこもり令嬢の契約婚約
(だけど、お父様やマイルズは違う。ふたりとも優しくてしっかり者で、けなされる必要なんてどこにもない)

 彼らの欠点は、引きこもりの娘ないし姉がいるという点だけなのだ。

(ぬるま湯につかるみたいに引きこもって。それがふたりに迷惑をかけるなんて……)

 ただただ悲しい。そんなつもりがなかったなんて言い訳も、自分の浅はかさを露呈するだけだ。
 胸の奥が痛くて、苦しい。

(このまま、私がエリオット様の婚約者でいたら、……彼も悪く言われてしまうの?)

 それはどんな攻撃より痛く、つらい。自分のせいで大事な人たちが傷つけられるなんて、嫌だ。

 街の輪郭がどんどんぼやけてくる。自分は泣いているのだ、とセアラは思った。頬を伝う涙は熱く、いっそこのまま自分を燃やしてくれればいいと思ってしまう。

(一年後なんて、遅すぎる)

 これ以上、エリオットの評判を下げるわけにはいかない。彼が好きだからこそ、自分の感情だけで別れを先延ばしにするのは、避けたかった。

(お別れを、言おう。これ以上誰かを傷つける前に)

「セアラ」

 セアラがその結論に達した時、背中に声がかけられた。
 反射的に振り向くと、そこにいたのはエリオットだ。走って来たのか息を切らせて、うっすらにじんだ汗が光っている。

「どうして……」

 あり得ない。彼は今の時間は王城で執務中のはずだ。

「泣いているのか? なにがあった」

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