引きこもり令嬢の契約婚約
 エリオットは心配顔で近寄ると、隠そうとするセアラの腕を掴んで、顔を覗き込んでくる。
 泣き顔を見せてはいけないと思うのに、セアラの涙腺は、ますます緩くなっていく。

「ホワイティが言っていたのは本当だったんだ」
 
 小さく息を吐きだして、彼はそう言った。

「ホワイティ……さま?」
「君が泣いていたようだって教えてくれたんだ。それで、執務を中断して……」

 心配して、探してくれたというのだろうか。一国の王子が? 婚約者が泣いているくらいで?
 うれしいのに、悲しい。自分の弱さが。彼に迷惑をかけることしかできない自分が。

 アデライドの言うことは正しいのだ。弱い人間は王子の妻としてはふさわしくない。
 王太子妃として求められる堂々とした立ち居振る舞いも、機転の利いた考えも、セアラにはない。それらすべてを兼ねそろえているのは、ソフィアだ。

(エリオット様にふさわしくないから、ホワイティ様だって姿を見せてくれないんだわ、きっと)

 そのくらい、セアラはホワイティにも嫌われている。

 ぷつりと、思考の糸が切れた。
 なにもかも、自分のせいのような気がする。自分さえいなくなれば、すべてがうまく回るようになるんじゃないかと。

「……もう、無理です」
「セアラ?」

 言いたくない。だけど止まらない。後ろ向きな思考が止まらず、自分のことが心底嫌になった。

「私じゃ、エリオット様の支えにはなれません。むしろお荷物だわ。私のせいで、皆が悪く言われてしまう。お父様も、マイルズも、あなたも」

 悪意を笑顔で受け流すこともできない。今この時でさえ、作り笑顔でごまかすこともできない。
 エリオットが神妙な顔をする。それを怖いと感じながら、セアラは目をつぶって言った。

「もう……辞めたいです。契約婚約」
「セアラ……」

 婚約式をしたばかりで、そんなことを言われても彼も困るだろう。それでも止まらなかった。
 セアラは今日、生まれてから一番自分が情けないと思った。
 優しくされるのがつらい。差し伸べられた手を取る資格なんてない思うくらいには自暴自棄になっていた。
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