引きこもり令嬢の契約婚約
「いったいどうして……」

 驚いた声をしているが、涙をぬぐってくれる手は優しい。しかしその問いかけにセアラが答えられずにいると、エリオットはセアラから一歩距離を取った。

「……わかったよ」

 一瞬息が止まった。自分から言い出したことなのに、了承されて胸がざわつく。

(私……なにを。エリオット様なら否定してくれるって思っていたの?)

「婚約は解消する。君はもう、城に来なくてもいい」

 はっきりとそう告げられて、胸がぐちゃぐちゃになる。

(やっぱり、エリオット様もずっと、私には分不相応だと思っていたのかしら……)

「す、すみません。役立たずで。私……」

 弁明をしようと口を開くと、彼の人差し指がセアラの唇を押さえた。
 涙にぬれた顔で彼を見上げると、彼はぎこちなく微笑んでいた。

「……僕が君を解放してあげるのは、君が至らないからでも、契約を履行してもらえないからでもない」
「え……」
「これ以上、泣かせたくないんだ。君が、好きだから。」

 息が止まった。思考も止まった。言われた言葉の意味が理解できずに、頭の中をぐるぐる回る。

「僕も昔は君みたいだった。感情が隠せなくて、とても心配がられたものだよ。だからポーカーフェイスを身に着けた。……王子としてはこれが正しいと分かっているのに、どこかむなしいんだ。純粋に世界を受け入れていた僕は、もういないんだから」

 涙で潤んで、エリオットの輪郭がぼやけていく。これで最後なのに、顔をしっかり見たいのに、だんだん見えなくなってくる。

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