引きこもり令嬢の契約婚約
「君といるときだけは、あの頃の僕に戻れたみたいでうれしかった。表情がすぐ変わる君を見ているのが、楽しくて。もっとずっと一緒にいたいって思った」

 どこか悲しそうな声なのに、エリオットの口元はずっと微笑んでいる。

「うそ……」
「嘘じゃないよ。そうだ。謝らなきゃならないな。契約なんて嘘をついて、君を権力争いに引き込んでしまったこと。君は引きこもりだから、そう言わないと婚約に頷いてくれないと思って。……僕はね、一年後に婚約破棄する気なんてなかった。それまでに君に好きになってもらおうって思っていたんだ」

 彼が傷ついているのは伝わってくるのに、態度は淡々として穏やかで、その違和感に、セアラは少し怖くなる。

「でも解放してあげる。君は何も心配しなくていいよ。後のことは僕に任せて。……さよなら、セアラ」

 最後だけ、わずかに声が震えて、唇に添えられた彼の手が離れていく。

「……っ」

 セアラがひと言も発することができないうちに、彼は背中を向けて歩き出し、出入り口付近にいたアビーに、「セアラをちゃんと家まで連れて行ってね」と告げた。

「……あ、あ」

 喉が熱くて声がかすれる。一度は止まった涙が、思い出したようにあふれ出した。

「うえっ、……ええん」

 自分も好きだと伝えるには、……追いすがるには最後のチャンスだったのに、動くこともできない。
 今のままの自分では、エリオットの重荷にしかならないと思えて、足がすくんでしまった。

「私も、……好き……なのに」

 気持ちだけじゃ、王太子妃にはなれない。自分を変える覚悟がないと無理だ。
 そして今、セアラにはまだその覚悟が持てなかった。
 
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