引きこもり令嬢の契約婚約


 使用人たちも仕事を終え、城内は穏やかな静寂に包まれる。
 護衛騎士が下がった後、エリオットはこっそりと自室のベランダに出て、夜風をその身に浴びた。

「はあ……」

 エリオットのため息に呼応するようにカサカサと葉擦れの音がして、次の瞬間には欄干にホワイティが降り立つ。
 欄干に体を預けていたエリオットの近くまで来ると、顔を覗き込むようにしたから見上げてくる。

『……泣き顔、久しぶりに見るわね』
「泣いてなんかないよ」

 エリオットは腕で目尻をぬぐい、ふいとそっぽを向く。とはいえ、ホワイティを騙せるとも思えない。エリオットにとって、ホワイティは空気のような存在だ。たとえわずかな心の変化だろうと、どれだけ表情を取り繕おうと、見抜かれてしまうことは分かっている。

『一年の間に、セアラを振り向かせるんじゃなかったの』
「そのつもりだったけどね。思ったより僕は彼女に本気になっていたみたいだ。……僕と結婚すれば、セアラは貴族女性の頂点に立つ。だけど彼女はその権力を利用できるような性格じゃないだろう。今でさえ、自分の立場が身の丈に合わないと感じているのだから」

 権力があれば人が幸せになれるわけじゃない。エリオットが愛する彼女の素朴さや純粋さは、貴族社会の中では削られ疲弊してしまうだろう。

「自分の立場に萎縮すればするほど、彼女は泣くことになる。……直接毒を吐いたのがキャンベル公爵令嬢だとしても、原因は僕にあるってことさ。これから先、僕のせいで彼女が泣き続けると思ったらね、……ちょっときつかった」

 今でこそ狡猾なふるまいも見せるエリオットだが、基本的には気が優しいのだ。

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