引きこもり令嬢の契約婚約


 エリオットから婚約破棄された翌日、セアラは屋敷の庭で、土いじりをしていた。
 昨晩、遅くに帰ってきた父は、訳知り顔でセアラの許へとやってきた。

「殿下から大体聞いた。しばらくは屋敷にいなさい。王都を離れたいというなら、領地へ行ってもいい」

 その申し出は正直ありがたかった。やがて婚約破棄が正式に発表されれば、王都には噂が駆け巡るだろう。その渦中にいるのは、精神的によくない。
 セアラが頷くと、父は数日のうちに手配すると言ってくれた。
 朝になって事情を聞いたらしいマイルズは、不満顔でセアラを見ていたが、話をする前に父に急かされ、学校へ向かっていった。

(マイルズ、怒っているのかしら……)

 気弱な姉に対して、言いたいこともあるのだろう。セアラも自分が情けない。

「……はあ」

 もう何度目かわからないため息がこぼれる。

「あら、ここにもモグラ塚……」

 小さな穴に土をかけ、ポンポンと振動が伝わるくらいに強く叩く。大事なハーブたちを傷つけないでほしいと願いを込めて。
 草花が風に揺れ、土のにおいがふわりと巻き上がる。

(今後は、ずっと領地で暮らすのもいいかもしれないわ。こんなささやかな日常が、私は一番好きなんだもの……)

 そう思いながらも、瞼を閉じれば悲しそうなエリオットの顔が浮かんでくる。

(あんな顔させてしまうなんて……)

 エリオットに婚約を破棄したいと言えば、契約を守らないことを怒られるか、笑って許してくれるかのどちらかだと思っていた。

(泣きそうな顔で告白しながら許してくれるなんて……思わないじゃない)

 セアラが欲しいのなら、手に入れるだけの権力が、エリオットにはある。
 でも彼はそれを使わず、セアラの気持ちを汲んで、婚約破棄を了承してくれた。

(……私は? それに甘えているだけ? エリオット様のあんな顔は見たくないのに。……ああ駄目。考えれば考えるほど自分が情けなくなる)

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