引きこもり令嬢の契約婚約
 大きくため息をつくと、屋敷の方からアビーの声がした。

「お嬢様、お客様がいらしています」
「え? 誰?」

 基本的に、貴族の屋敷に先ぶれもなく訪問するのはマナー違反だ。そんなことをしそうなのはアドレイドくらいで、彼女であれば、昨日の今日で会いたくはない。
 しかし、アビーの口から飛び出したのは意外な人物だった。

「それが、……オルセン侯爵令嬢です」
「ソフィア様?」

 昨日、彼女の護衛騎士に泣き顔を見られている。

(もしかしたら、彼から聞いて、心配してきてくれたのかしら)

 そうであれば、追い返すなんて失礼だ。セアラは重い腰を上げた。

「客間にお通しして。お茶の準備も頼んで頂戴」

 いろいろと力になってくれたソフィアには、きちんと自分の口から婚約破棄を伝えなければならない。相手からの訪問に乗っかるようで申し訳ないが、これはある意味チャンスだろう。
 土のついたワンピースから緑色のドレスに着替え、客間に行くと、中にはソフィアと護衛騎士の姿があった。
 護衛騎士が先にセアラに気づき、会釈をするとすぐソフィアの後ろに下がる。

「ソフィア様、ようこそ」
「セアラ様。先ぶれもせず急な訪問を受け入れてくれてありがとうございます。ふふ。先にお伝えしたら逃げられそうな気がしまして」

 ソフィアは笑顔だ。なのに、なぜだか威圧感がある。 

(これは……怒っている?)

 彼女から発せられる空気のとげとげしさに怯えながらも、セアラは必死に声を絞り出した。

「あの、実は……私、ソフィア様に謝らなきゃいけないことが」
「まあ、なにかしら。突然、正妃教育を中断したことと関係あるのかしら」

(これは……もう婚約破棄のことは知っていそう!)

 教育係になっているソフィアには、一番に事情が伝えられたのだろう。セアラはヒヤヒヤしながら、とりあえず頭を下げた。
< 97 / 233 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop