スパダリ御曹司は政略妻とベビーに一途愛を証明する

「七海は嫌か?」
「嫌というか、疑問を持っただけ。私は葉室グループの方と面識がないし、有栖リゾート自体も葉室と深い関わりがあるわけではないでしょう? それがお見合い相手を選ぶとなったときに、私を指名してくるなんてどう考えてもおかしいと思うじゃない」
「……おかしい、か」
「そうよ。本当に大丈夫なの? 騙されてるわけじゃないよね……。なんだか話がうますぎてお受けするのは不安だわ」

 尻込みする私に、父はひとつ息を吐いた。

「うちはバリ島を皮切りに、海外にも展開し始めただろう? 葉室グループは自身のホテル事業をさらに拡大したいと考えて、うちの経営に目をつけたようだ」
「つまり、結婚すれば、先方にも利益になると考えてのこと?」
「あぁ、そうだ」

 父はうなずく。まったく葉室には旨味のない話だろうと思って疑問だったが、きちんと理由があるようだ。
 私はそれを聞いて、納得したと同時にうれしくなった。

「それって、お父さまの経営が葉室グループに認められたってことよね」
「そうとも言えるな」

 つい笑みがこぼれそうになる。父は続けた。

「実は、先んじて朔也さんにはもうお会いしてきた。若いのに物腰が落ち着いていて、礼儀もある。好青年だった」
「そっか……お父さまがそう思うならよかった」

 ちなみに、お見合い相手の葉室朔也さんは私より三つ年上だという。

 私が二十一歳、彼は二十四歳。葉室グループに入社してまだ二年目。
 とはいえ、御曹司である彼には早く身を固めてほしいという意向が家族にあったそうだ。

 それでお見合い相手を検討するにあたり、会社の利益になるような相手を考えたのだろう。後継者を考えなければならない立場であるからこそだ。

 後継者問題については有栖リゾート側にもある。

 前身『有栖開発』のときから代々〝男性が後継者〟という方針のため、父の後は叔父の息子か、もしくは社外の適任者が社長を務める予定になっていた。

 ところが叔父一家は、今の〝家族みんなで楽しめるリゾートホテル〟というコンセプトをやめ、〝子ども禁止の高級ホテル〟へ路線変更しようと目論んでいる。

 父はもちろん反対だ。だからこそ、父の考えに賛同する人をひとりでも多く増やす必要がある。
 父が今のままの有栖リゾートを守りたい理由は、私が小学生の頃に病気で亡くなった母の存在によるところが大きい。

 父は母を深く愛しており、彼女を失ってから長く元気をなくしていた。そんな父を支えたのが、母との思い出が詰まった有栖リゾートだった。
 母が好きだった今の形を守ることこそ自分の役割だと考え、父は経営を続けてきたのだ。

 私自身も、つらいときには有栖リゾートで撮った写真を見返した。写真の中の母はいつも穏やかに微笑んでいて、三人で泊まった日々の記憶が鮮やかによみがえる。
 有栖リゾートでの思い出は、父と私をずっと支えてくれていた。

 だからこそ、叔父一家の計画でこのホテルの未来を変えられたくはなかった。

 けれど、私にはなんの権限もない。どうすることもできないと思っていた矢先、葉室から思いがけない申し出だ。
 しかも、葉室グループは父の経営手腕を評価してくれている。ならば、きっと父の力になってくれるはずだ。

 私は格の違いに少し不安もあったものの、お見合いを受けると決めた。
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