敏腕自衛官パイロットの揺るがぬ愛が強すぎる~偽装婚約したはずが、最愛妻になりました~
 「そういえば自衛官なんですよね」
 「ああ」
 「所属は宮城の基地ですか?」


 宮城には仙台よ東松島市のほかにもいくつかあるはずだ。


 「そうだね、県内。俺は――」
 「お待たせいたしました」


 透矢の言葉に被せて店員が料理を運んできた。


 「シャインマスカットと白桃のカプレーゼと、毛ガニのフルーツトマト包み、それからこちらはホワイトアスパラとカダイフのキャビア添えです」


 色とりどりの前菜でテーブルが一気に華やぐ。コース料理を注文したわけではないため、それに目を奪われているうちにメインの肉料理も運ばれてきた。


 「仙台牛サーロインのパイ包みトリュフソース、鯛とキンメダイのポシェです」


 あっという間にテーブルが料理でいっぱいになる。


 「素材の組み合わせが珍しいですね」
 「それがこの店の特徴」
 「どれもおいしそう」
 「おいしそうじゃなく、おいしいから食べて」


 透矢は切り分けてあれこれ盛りつけた取り皿を彩羽に差し出した。


 「ありがとうございます。いただきます」


 早速手を合わせてフォークを手に取る。どれから食べようかと目移りしながら、カプレーゼを口に運んだ。
 〝どう?〟と目で問う透矢に大きく頷く。


 「とってもおいしいです。野菜とフルーツの組み合わせが絶妙。ナッツを使ったドレッシングがよく合いますね」
 「だろう」
 「このトマト包みも最高です」


 ツンと鼻にくるわさびソースがいい塩梅だ。
 あれもこれもと頬張っては「おいしい」を連発する彩羽に、透矢はまるで自分の手柄のように誇らしげだった。
 デザートで頼んだ甘くないレアチーズケーキは、珍しい創作料理を出すというこの店で彩羽が一番驚いたものだ。
 ハーブがたっぷり乗せられたチーズケーキはほんのり緑茶の香りと塩気を感じ、りんごやキウイのマリネソースも抜群の味である。


 「意外な組み合わせなのに、ひと口食べると癖になるおいしさですね」
 「だろう」
 「ふふっ」
 「なに?」


 彩羽が思わず笑みを零すと、透矢が不思議そうにする。


 「透矢さん、さっきから『だろう』ばっかりだから」
 「そんなに言ったか?」
 「はい。数えておけばよかった」
 「わかった。もう使わないと誓う」


 透矢が口にチャックをする仕草をしておどける。


 「じゃあ、使ったらペナルティで」
 「いいだろう。一度でも使ったらコーヒーを奢る。この近くにうまいコーヒーを飲ませるカフェがあるんだ」


 つい軽口を叩く彩羽に透矢も乗り、ふたりで笑い合った。
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