敏腕自衛官パイロットの揺るがぬ愛が強すぎる~偽装婚約したはずが、最愛妻になりました~
 出会ったばかりとは思えない空気感を男性に覚えたのは初めてだった。たぶんそれは、おいしいものに目がないという共通点があったからだ。
 レストランを出てすぐ『じゃ、また』と別れたが、再び会うことはないだろう。

 (そういえば透矢さんって、どこの駐屯地に所属してるんだろう。……もう会わないから関係ないか)

 そんなことを考えながら写真を撮っていると、彩羽のショルダーバッグの中でスマートフォンがヴヴヴと振動を伝えてきた。
 カメラを首から提げたままバッグに手を突っ込む。取り出したスマートフォンの画面には見知らぬ番号が表示されていた。市外局番は東京だ。
 飛び込みの依頼もあるため、登録していない番号からの電話もたまにある。仕事絡みだろうかと考えながら応答をタップして耳にあてた。


 「はい、坂下です」
 『東京にあるエッセンシャルブックスという出版社ですが、こちらはスカイフォーカスさんのお電話でお間違いないでしょうか?』


 男性がそう問いかける。スカイフォーカスは彩羽がフリーカメラマンとして独立した際に名づけたサイト名である。
 エッセンシャルブックスという社名は聞いたことがないが、仕事の電話らしい。
 どことなく聞いたことのある声だった。賑やかな場所にいるのか、音がクリアに聞こえないせいもあるのかもしれない。


 「はい、そうです」
 『突然のお電話で申し訳ございません。私は田村と申しますが、お仕事を依頼したくお電話をいたしました』
 「……田村?さん?」


 二年前に別れた元彼と同じ名字のため反応してしまったが、おそらく違うだろう。田村は珍しい名字ではない。それに元彼は新聞社勤めで、エッセンシャルブックスではなかった。


 『はい、田村です』
 「どのようなご依頼でしょうか」


 気を取りなおして質問する。


 『来月開催される松島基地の航空祭で、航空自衛隊アクロバット飛行チーム、ブルーインパルスの写真を撮影してほしいんです』
 「ブルーインパルスの写真、ですか」
 『はい。カメラマンを探してネットを彷徨っているときにスカイフォーカスさんのホームページを見つけまして……』


 それはとてもうれしいが。
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