敏腕自衛官パイロットの揺るがぬ愛が強すぎる~偽装婚約したはずが、最愛妻になりました~
 仙台には陸上自衛隊の基地が、そして三十五キロほど離れた私たちの住む東松島市には航空自衛隊の基地がある。ゆかりの言うように、そこから参加する人もいるだろう。
 ブルーインパルスのパイロットにはファンクラブもあるらしく、当然ながらゆかりも加入している。
 彼女に言わせると、自衛隊限定の婚活パーティーは女性からも人気で、参加するのにも激戦なんだとか。であれば余計に、彩羽はお呼びでないのでは?と腰が引けてしまう。
 なにしろ結婚はまったく考えていない。つまり真剣にこの場に集まる自衛官の彼らに対しても失礼だろう。

 (隅のほうにいて、なるべく交流しないで済ませよう)

 ゆかりによると今日のパーティーは立食形式の自由なスタイルなのだとか。輪になって順番に全員と数分間ずつ話したり、パーティーを盛り上げるためにゲームをしたりもないらしい。カップルが成立したら、パーティーの退場も自由だという。
 おいしい料理を食べながら思い思いに交流し、将来の伴侶候補をゲットできたらふたりで抜け出せるのだと。
 大勢の女性たちがフロントロビーを横切り、会場目指して歩いていく。誰も彼も着飾り、気合は十分だ。
 彩羽も先週末、ゆかりに連れ出されてワンピースを買ってきた。お店をいくつも周り、何着も試着して、ゆかりが『これが一番』と太鼓判を押したものだ。


 「さぁ行くよ」


 ゆかりは意気揚々と足取りを速めた。
 受付で必要な手続きを済ませ、ネームプレートを胸につけて熱気ムンムンの会場に入る。女性だけで三十名くらいだろうか。
 この時点ではまだ男女は別々だ。おそらく男性も同じくらいの人数が集まっているのだろう。
 司会者による熱のこもった挨拶が終わり、開始の合図とともに大ホールの中央にあったパーティションが取り払われる。男女どちらも色めき立つのがわかった。
 その瞬間、ゆかりは彩羽の存在を忘れたのか、ほかの女性参加者たちに負けずに彼らめがけて向かっていった。
 彼女たちと逆方向に向かったのは彩羽ひとりだけ。目指すは壁に沿って並んだ料理の数々である。
 ひとりで別行動をとる彩羽を見て、ウエイターは目を瞬かせていた。
 皿を手に取り、若鳥の山椒焼き、白身魚の南仏風南蛮漬け、炙りサーモンの手毬鮨などあれこれ手に取っていく。
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