敏腕自衛官パイロットの揺るがぬ愛が強すぎる~偽装婚約したはずが、最愛妻になりました~
 「……あ、えっとその、おいしいからどうかなと思っただけです。ごめんなさい、お邪魔して」


 婚活目的ではなく同行者としてここへ来たのなら、女性に声をかけられるのにはうんざりしているに違いない。その気持ちはわかるため、取り繕いつつ彼からそれとなく離れた。
 気を取りなおしてべつの料理を皿に取っていると、思いがけずその男性が声をかけてくる。


 「これもおいしいですよ」


 そう言って、カップに入ったパンプキンサラダを彩羽の皿の上に置いた。
 驚いて目を瞬かせていると、男性は「どうぞ」ともう一度言った。


 「……ありがとうございます」


 早速、口に運ぶ。


 「ほんとだ。おいしい」
 「でしょう? あなたが勧めてくれたポテトもおいしかったですよ」
 「よかった。私、おいしいものに目がなくて」


 あとは空にも。異性に向く興味が、そのぶんそれらに向かっている気がする。


 「奇遇ですね。俺もそうですよ。だから今日は端から端まで食べて帰るのを目標にしてます
 「私もですっ」


 同志を発見して、つい前のめりになって答えてしまった。彼にクスッと笑われ、途端に恥ずかしくなる。


 「ところで、あちらに行かないんですか?」


 男性が、賑わっているほうをチラッと振り返る。


 「友達の付き添いで来ただけなんです。なので、料理を食べることに専念して帰ろうと」


 男性も同じ状況だと知っているため、正直に打ち明けた。


 「あなたもそうですか。じつは俺もです」
 「さっき女性に断っているのを見ました」


 彩羽の言葉に男性が肩を上げ下げして笑う。


 「ひとりじゃ心配だからって強引に連れてきたくせに、当の本人はひとりでちゃっかり楽しんでますよ」
 「私の友達もです」


 ゆかりは数人の輪の中で盛り上がっている。心許ないと言っていたが、積極的な彼女ならこういう場は得意だろう。
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