敏腕自衛官パイロットの揺るがぬ愛が強すぎる~偽装婚約したはずが、最愛妻になりました~
 「三井(みつい)透矢(とうや)と言います」
 「あっ、私は坂下彩羽です」


 唐突に自己紹介され、彩羽も慌てて名乗る。ネームプレートをお互いに見せ合った。
 そこに書かれた情報によると彼は三十一歳。彩羽の四つ年上だ。
 彼ほどの容姿なら、こういう場に来なくても女性から引く手あまただろう。気合を入れて婚活する必要はない。

 (そもそも恋人がいるんじゃないかな)

 同行者として来たのなら可能性はある。


 「あの、すみません。ちょっとお話しできませんか?」


 不意にひとりの女性が彩羽に頭を下げつつ、透矢に話しかけてきた。婚活パーティーならではの光景だ。結婚相手を探すために来ているのだから、気になる人がいれば声をかけて当然である。
 いくら彼が同行者として来たのだとしても、この場合、彩羽は退散すべきだろう。
 会釈して立ち去ろうとしたが。


 「申し訳ありません。こちらの女性とお話ししていますので」


 透矢は彩羽が離れるのを拒んだ。足を止めて彼を見ると、透矢が目配せをしてよこす。〝俺に合わせてくれ〟と言いたいみたいだ。
 彩羽を切なそうに見る女性にいたたまれなくなるが、婚活を必要としていない透矢に時間を割くのは彼女にとっても無意味だと割りきる。ごめんなさいの意を込め、彼女に目礼した。


 「では、近くで待っています」
 「時間いっぱいまで彼女と話したいのですみません」


 なかなか引き下がらない彼女に、待っても無駄だと透矢は暗に含める。女性は悲しそうに彩羽たちの前から去っていった。
 その背中を見送り、目線をビュッフェテーブルに戻す途中、彼の視線とぶつかる。なぜかまじまじと見つめる彼の眼差しに捕らわれた。

 (な、なにかな。どうしたんだろう……)

 ゆっくりと首を傾げる。
 透矢はしばらくなにかを考えるようにしたかと思えば、ハッとしたように目を見開き「そうだ」と呟いた。瞳の奥で微かに光が煌めく。


 「俺たちでカップルを成立させませんか?」
 「……はい?」


 この人はいったいなにを言っているのだろうか。
 透矢は彩羽との距離を一歩詰めて続ける。


 「キミと俺がカップルになる」


 透矢は彩羽と自分を交互に指差して言いきった。ますますわからず、目をパチパチと瞬かせる。
< 6 / 21 >

この作品をシェア

pagetop