敏腕自衛官パイロットの揺るがぬ愛が強すぎる~偽装婚約したはずが、最愛妻になりました~
 「ですが、婚活に興味はないんですよね?」


 今日は付き添いで来たと言っていたし、彩羽と話す前まで料理に夢中だった。ここで彩羽とカップルになってどうするのか。


 「キミもだろう?」
 「はい。そのつもりでここへ来たわけじゃないので」
 「だから協力しようと言ってる」
 「協力? ……あっ、もしかしてカップルのふりですか?」


 数秒考えて彼の目論見を察知する。つい声が大きくなり、透矢は唇の前で〝しー〟と人差し指を立てた。
 今日の婚活パーティーは、カップルにさえなれば退場が自由だ。


 「その通り。どう? いいアイデアだと思わない?」


 透矢はいたずらを思いついた子どものような顔をした。こちらまでつい笑顔になってしまうような無邪気さだ。


 「名案ですね」


 この場に留まれば、声を掛けられるのは避けられない。結婚の意思がないから相手には失礼だし、自分にとっても不毛な時間だ。いくらおいしい料理が食べられるとしても。
 それを回避するには、彼のアイデアに乗るのが一番だろう。
 いたずらに乗るワクワクと、秘密を共有するドキドキがないまぜになる。


 「よし、密約成立だ。そうと決まれば、早速行こう」


 透矢は口角を上げてにっこり笑い、受付のほうを見た。
 ゆかりにひと言断ってからにしたいが、彼女は男性と楽しそうにしゃべっている。

 (せっかくいいムードだから邪魔しないほうがいいよね)

 このパーティーに対するゆかりの気合の入り具合は半端ではなかった。会場を出たらメールを送ろうと決め、透矢に頷いた。
 出入り口に設置された受付でカップルが成立したことを伝え、いよいよ会場を出る。彩羽も透矢も、受付で渡された紙を手にしていた。
 彩羽がもらった紙には透矢の年齢など簡単な紹介と連絡先が、透矢には彩羽のそれらの情報が書かれている。カップルが成立するともらえるものらしい。
 ホテルのエントランスに向かいながら、その紙をバッグにしまう。今日はこれで自由だ。
 気のない会話をする必要がなくなり、晴れ晴れとした気分である。
 外へ出ると、太陽はまだ傾きはじめたばかり。燦々と降り注ぐ日差しも威力を失っていない。青空も健在だ。
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