謎かけは恋の始まり
 毎年恒例の夏祭りの夜。会社のイベントとして地域の盆踊り大会に参加した帰り道だった。浴衣姿の杏南と部長は、縁日の明かりが残る商店街を歩いていた。

「藤井。……今夜の謎かけ、聞くか?」

「もちろんです」

 部長は立ち止まり、夜空を見上げた。

「“ずっとそばにいたい人とかけまして、夏祭りの花火と解きます”」

 杏南は鼓動が跳ね上がるのを感じた。

「……その心は?」

 固唾を呑んで、オチを待つ。
 部長は、杏南の目を真っ直ぐに見て——

「どちらも、“消えてほしくない”でしょう」

 その声は、夜風よりも優しく、花火よりも鮮やかに、杏南の心に届いた。

「それって、私のことですか?」

 如何にも冗談ぽく尋ねた。

「ああ、そうだ」

 月が雲間から顔を出す。部長は照れくさそうに笑った。

「じゃあ、私からも謎かけを一つ」

 部長が目を細めて頷く。

「“部長の気持ちとかけまして、定食屋の一番人気と解きます”」

「ほう。その心は?」

 杏南は小さく息を吸って、そして言った。

「どちらも、ずっと前から気になっていました」

 部長が目を丸くし、そして大きく笑った。

「うまい! 座布団三枚!」

 部長の謎かけと笑顔は、いつも杏南の心を優しく解してくれる。





【完】
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