万能フライパンで王子の胃袋を掴んだ私、求婚を断って無双する!
 自分の服を見てみると、彼らと似たような衣装を身に着けていた。これは女神のサービスだろうか。
 あきらめの境地でほっぺたをつねると、痛かった。
よく、夢かどうかを確かめるために頬をつねる描写があるが、本当にそれでわかるのかどうか、長年疑問だった。あるとき夢の中で「あ、これ夢だ」と気が付いたときに頬をつねってみたら痛くなかった。だからあれは夢かどうかの判別に役立つという結論に達していた。そして今は痛い。ということはこれは現実なのだ。

「お前は誰だ! どうして急に現れた!?」
「私にもわかりません」
 正直に答える。

 目の前にいるのは男女合わせて五人。うち三人は平民のようだ。彼らの前には簡易のかまどがあった。近くには折り畳みらしきテーブルがあり、調理途中の肉や野菜が準備されている。
 別のテーブルには貴族っぽい服を身にまとった老夫婦が困惑した顔でこちらを見ている。

 周囲は森に囲まれていた。花が咲いていて、近くには清水が湧き出る泉がある。晴れ渡った空にピーっと鳴きながら鳥が飛んでいった。
 もしかして彼らはピクニックに来ていたのだろうか。それで現地で料理をしている最中なのだろう。

「お前、フライパンを持っているのか? ちょっと貸してくれないか」
「フライパンを?」

「持って来るのを忘れて困ってたんだ」
「はあ……」

 突然現れた自分は不審者だろうに、それでも借りるんだ、と思いながら美愛はフライパンを渡そうと差し出す。
 男のひとりがフライパンを持った瞬間、ずどんと地面に取り落した。

「重い! なんだこのフライパン」
「なにやってんだよ」
 連れのひとりがかわりに片手でフライパンを拾おうとするが、持てずに手がすっぽ抜けた。驚きと共にもう一度、今度は両手で持とうとするが、持ち上がらない。
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