転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 目の前に最愛の人がいる時は、ほかの人になんて目移りしないで。
 私だけを見てほしいという気持ちは、自分も何度か感じたことがあったから……。

「ご、ごめんなさい……。殿下を、悲しませるつもりはなくて……」
「構わない」

 ディルクさんは口元を優しく綻ばせたあと、私の髪を手櫛で何度か漉く。
 その後、当然のように抱き上げて侍女と護衛騎士に指示を飛ばす。

「リルマ。ご苦労だった。あと片づけが終わったら、下がってくれ」
「承知いたしました」
「カルトン。俺のシエルを、女性として見るな。それ以上踏み込んでくるつもりなら、貴様であろうと許さん」
「はいはい。わかってるって。そんな怖い顔すんな。嬢ちゃんが怯えちまうぞ?」
「うるさい」

 ディルクさんは不愉快と苦痛がごちゃまぜになった複雑そうな表情を浮かべたまま、寝室へ移動した。

「俺が出て行ってからずっと、絵を描いていたそうだな」
「なんだか、いつもより……。心が軽くて……。晴れ晴れとした思いをいだいた、せいか……。筆が、止まらなくて……」
「1人にして、すまなかった」
「ユニィ!」
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