転生聖女は、ユニコーンと逃げ出した
 父や兄の言いなりになっていた過去の自分に対する静かな怒りが、全身に湧き上がる。
 俺はそれを表に出さないように気をつけながら、逃げた理由がほかの男との駆け落ちではないことを願い続けた。

「我が神殿には、彼女よりももっと目麗しい女性達がいらっしゃいます。せっかくですから、新たな結婚相手を……」

 司祭は相手が聖女なら誰でもいいと思い込んでいるようで、別の女性を勧めてくる。

 ーー冗談ではない。

 彼女に逃げられた程度で諦めるくらいなら、15年間も執着などしていられるわけがない。
 こちらが一方的に不利益を被る話だけは、絶対に了承するわけにはいかなかった。

「代わりはいらない」

 これ以上不毛な争いをしなくて済むように、心底不愉快だと言う態度を崩すことなく跳ね除けた。

「いえ! しかし……! これは神殿側の不手際でして……」
「花嫁に逃げられた男と、不本意な噂を流されるのは構わない」
「ですが……」
「貴様の言い分は聞き飽きた」
「殿下! お待ち下さい……!」

 俺は内心苛立ちを隠せぬまま、踵を返す。
 この時を、何年待ったと思っている。
 些細なトラブルであの子を手に入れる機会をみすみす逃すなど、冗談ではなかった。
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