「好き」があふれて止まらない!
「よくできました」
「何それっ。⋯⋯で、いいの? 楽器店は」
「俺はまっすぐ家に帰って休みたい」
それも嘘じゃないけれど、本当の理由はまだ咲茉と一緒にいたかったからだ。
好きな本の話をするときはいつもより饒舌になるところ。
小説を書くことに一生懸命で、一度やると決めたら全力で向き合うところ。
すごい才能を持っていて、努力もできる人間なのに自分に自信のないところ。
あの日、咲茉が階段から降ってこなかったら⋯⋯。
ただのクラスメイトのままだったら全部、知らないままだった。
教室では見たことのない咲茉のクルクルと変わる表情を見ていると、その可愛い顔を自分だけに見せてほしい。
いつしかそんな独占欲が芽生えるようになっていた。
こんな気持ちになるのは咲茉がMEBIUSの救世主だからか、それとも⋯⋯。
「あ、お疲れさまでした!」
「今日はありがとうございました」
受付の人に挨拶をしてライブハウスの外に出ようとしたとき、千里からLIMEが届いた。
《表にはファンの子がいた。裏から出て》
了解と返して、来た道を引き返す。
「もう出口だよ?」
「そっちから出ると出待ちがいるから裏から出るぞ」