「好き」があふれて止まらない!
「嘘でも嫌いだとは言えなかったんだよね?」
「知ったような口を聞くなよ。⋯⋯俺がピアノを好きでもピアノを弾くことによって周りに迷惑がかかるんだ」
桜路くんは自分だけじゃなくて、周りの人たちに迷惑をかけないようにピアノを辞めたんだ。
好きなものを諦めなくちゃいけない気持ちを思うと胸が痛む。
わたしにも好きなものが、小説があるから。
好きなのに書けないなんて状況になったら辛いよ。
「桜路くんはやっぱりMEBIUSに入るべきじゃないかな?」
「は? 俺がピアノを弾かなくなった理由を聞いたんだろ? MEBIUSみたいな人気バンドに入ったら状況はもっとひどくなる」
「そう思うよね。だけど、MEBIUSのファンは日本一マナーがいいって有名なの」
わたし調べだけど。
「なんだそれ」
「日常生活で騒がれることはあると思うけど、桜路くんがピアノを弾く環境を奪うなんてことはしない」
MEBIUSファンクラブ会長の海音ちゃんがそんなこと許すはずがない。
「わたしはMEBIUSのファンクラブ会員ではないんだけど、わたしも桜路くんが困っているなら力になりたい。コンクールのときは会場前で見張り……とか?」
「そんなことされたら迷惑」
ゔっ⋯⋯きっぱり断られた。