温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~

第1話 橋の上で出逢った人は和装の似合う若旦那だった

 橋の上でぼんやりと山の峰を眺めていた。
 連なる山々は錦に染まりはじめ、大正ロマンを彷彿とさせる温泉街の魅力を引き出している。

 温泉宿が連なる街並みの真ん中を流れる川のせせらぎと、石造りの橋をゆく下駄を履いた人が奏でる音に耳を傾けた。

 まるで時代を超えたような気分だ。
 ここに都会の喧騒はないし、私を知る人もいない。

 孤独と自由が鬩ぎ合い、冷たい秋風が吹き抜けると、どうしようもない感情が沸き上がってきた。

 全てを捨てるしかなかった。
 都会で生きるのはもう無理だった。無理して笑って、彼のご機嫌をとって頑張っていたのよ……なのに、どうして?

 脳裏に甦ったのは、私たちのベッドで愛し合う彼と私の親友だった。

 フラッシュバックする裏切りが、胸をギリギリと締め付ける。かきむしりたい程の焦燥と絶望に、涙が次から次へとこぼれ落ちた。
 赤く染められた木の欄干に両手をつき、嗚咽を噛み殺す。

 そうして泣いていたのは、ほんの三分くらいだったかもしれない。

 人前で泣いていたら不審に思われるかもしれない。慌てて目元を拭おうと橋から手を離したその時だった。
< 1 / 64 >

この作品をシェア

pagetop