温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
 カランコロンと(せわ)しい下駄の音が近づいてきて、手首を急に掴まれた。
 力強さに、それが男の手だとすぐにわかった。

 恐怖に喉がひきつった。
 だけど、悲鳴をあげる気力のない私は、身を固くするのに精一杯だった。

「早まるんじゃない!」

 緊迫感をはらんだ低い声は、聞き覚えのないものだった。恐る恐る顔を上げると、眉をひそめた男性と目があった。

 品のある着物姿の男性は、私がなにもいわずに震えていると「手荒なことをして申し訳ない」といい、ついと川の向こうへ視線を向けた。

「わけありのようだが、命を粗末にするものじゃない」
「え、あ、あの……」

 身投げをしようと思われたのだと、はたと気いた。

「辛いことがあったのだろうが、まずは湯に入り心を落ち着けるといい。私がいうのもなんだが、ここの湯は傷によく効く」
「……傷?」

 面白いことをいうなと思って、聞き返したのは無意識だった。
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