温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
 宿に入ると、受付から初老の男性が出てきた。

「若旦那、お帰りなさいませ。そちらのお嬢様は……?」
「幹本、変な詮索をするな。客だ」

 いいながら私の手を離した男性は、キャリーケースを離さずにカウンターの前へ立つ。

「……お客様ですか」
「露骨にがっかりした顔をするな」
「そうおっしゃいますがね……お部屋はどちらにしましょうか」
「桂の間が空いていただろう?」
「空いてはいますが……」

 幹本と呼ばれていた初老の男性が、ちらりと私の方を見た。
 桂の間といっていたけど、もしかして、スイートルームみたいな部屋なのではないか。この手の老舗旅館って、特別室に桂とか桜、菖蒲、なんて植物の名をつけがちよね。

 待って、私、そんな贅沢するつもりなんてないんだけど。

 今まで真面目に働いて貯金してきたから、温泉宿に連泊するくらいの蓄えはあるけど、でも、これからの働き先とか新しい住居を探さないとだし。

「あ、あの、私、そんなお財布に余裕は……」
< 4 / 64 >

この作品をシェア

pagetop