温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
「は、放して……」
「俺がどれだけお前を探したか、知らないのか!?」

 知らない。知りたくもない。

「美琴のことは悪かったと思ってる。魔が差したっていうか……けど、お前がいなくなって、わかったんだよ!」

 身勝手な言い分を語りだす隼人に、心がますます冷えていった。
 魔が差したら、恋人の親友と寝てもいいっていうの?
 
「お前が本当に俺のことを愛してくれていたんだって。そうじゃなきゃ、毎日、味噌汁なんて作れないんだって。聞いてくれよ、美琴のやつ、あれからマンションに転がり込んできて料理の一つもしないんだ」
「知らない! 放して。私もう行くから」
「そんなこというなよ。な、話し合おう。俺にはやっぱり、お前が必要なんだよ!」

 掴まれる手を振りほどこうとして、踵に力を込めた瞬間、ずりっと滑って視界が傾いだ。

 隼人の手が放れ、道路に投げ出されると思った。だけど、いつまでたっても冷たい雪道に身体が叩きつけられることはなかった。
 代わりに、暖かくて優しい香が染みた着物に包まれていた。

「……一鷹さん?」
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