温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
 わめいていた隼人も口を閉ざした。

「雪道に倒れそうになったすずを支えもせず、なにが恋人だ。笑わせてくれる」

 一鷹さんの口角が上がり、隼人が奥歯を噛み鳴らした。

「これ以上、すずに付きまとうようなら、ヴェリテホールディングスの会長に、お前のことを忠告させてもらう」
「……は?」
「会長って……?」

 きょとんとして一鷹さんを見上げると、ギラギラと怒りに染まっていた目が少し緩み、私を見た。

「話していなかったか。私の祖父がヴェリテの会長だ」

 一鷹さんの突きつけた事実に、隼人はなにも言い返せなくなった。

「お客様。どうぞ湯乃杜温泉を楽しんでお帰りください」

 いつもの穏やかな声に戻った一鷹さんは、私の肩を抱いたまま、隼人に背を向けると静かに歩きだした。
 
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