温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
 やっとの思いで告げると、一鷹さんは「わかった」と静かに頷く。
 私を抱き締めていた腕が緩まり、二人の間に小さな距離ができたような気がした。それを無性に寂しく思いながら、一鷹さんの背から指を放した。

 この日、一鷹さんはいつものように穏やかな笑顔を浮かべてフロントに立っていた。もしかしたら、隼人が賢木屋に怒鳴り込んでくるのを警戒してくれていたのかもしれない。

 だけど、私は隼人のことをすっかり忘れるくらい、一日中、一鷹さんのプロポーズにどう返事をしようかばかり考えていた。
 それは翌日になっても変わらなかった。

 ◇

 お昼休憩の時間、青いブーケをもって現れた一鷹さんが女将にそれを贈ると、料理長がホールケーキを持ってきた。

「女将、お誕生日おめでとうございます!」

 スタッフの拍手の中、女将は灯されたロウソクの火を吹き消した。
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