温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
「私が隼人のことで怖い思いをしたから、だから、私も死ぬんじゃないかって、心配しているだけでしょ?」
「すずがいなくなることは怖い。だけどそれは、妹を喪ったからじゃない……愛しているんだ。君のいない日が考えられない」

 こんなに都合のいい告白を受け入れていいのだろうか。
 また裏切られ、辛い思いをしたらどうしよう。

 不安がよぎるけど、だけど、怯える私よりも一鷹さんを求めている私の方が我慢できなかったみたい。
 気付けは大きな背中に両腕を回し、しっかりとすがり付いていた。

「すず、私の妻になってはくれないか? 一生、すずのことを守らせてほしい」

 旅館の事務室だなんて、ロマンもムードもないけれど、彼の力強い抱擁の中で思いが確かに伝わってくる。

 信じたい。一鷹さんを信じたい。
 だけど「はい」と返事する勇気が持てなかった。たった二文字なのに、応えようとしても喉がつまってしまう。

 あまりにも色々なことが起きすぎて、混乱していたんだと思う。

「……少しだけ、時間をください」
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