温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
「誕生石ですね」
「そう、それもあるけど、青色が大好きなの。この花束も、今日の着物にぴったりだわ」

 無邪気に喜ぶ女将に、スタッフたちが口々に「よかったですね」と声をかける。

「そういや、女将が嫁がれてから初めて着物姿でフロントに立たれた時も、青色の着物でしたな」
「そうそう。先代にピンクや黄色の柔らかい着物にしなさいって怒られてね」

 幹本さんの思出話に笑った女将は、懐かしむような表情で私を見つめた。

「すずさんには、どんな色が似合うかしらね」

 女将の言葉にどきりとした。
 他意はないんだろう。だけど、一鷹さんのプロポーズのこともあり、女将になりなさいといわれたような気がした。

「一鷹。来年も、すずさんに花を選んでもらいなさい」
「すずが嫌じゃなければ頼みたいね。俺はセンスがないそうだから」

 ケーキを食べ終えた一鷹さんが湯呑みに手を伸ばすと、幹本さんが「若旦那、拗ねなさんな」といって大笑いした。
 事務室が明るい空気に覆われる中、私は「来年も」と女将の言葉を胸の奥で繰り返した。
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