温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~
 忙しく午後をすごし、夜9時を回った頃だった。

 事務室に女将が入ってきた。手には、青い花束をいけた花瓶を持っている。

「せっかくだから、事務所に飾って皆に楽しんでもらおうと思って。でも、ここだと早く散っちゃうかしら?」
「ずいぶん暖かいですからね」
「でも、私の部屋では日中、誰も見てくれないでしょ?」

 宝物を自慢したい子どものような目で、女将は私に笑いかけると花瓶の向きを整えた。

「そうだ、すずさん。少しお使いを頼まれてくれるかしら?」
「こんな時間にですか?」

 まだ飲食店や旅館は開いている時間ではある。なにか届けないといけないものでも、あるのだろうか。
 お使いの内容はさっぱり思い浮かばない。

「結び橋の向こうにコンビニがあるでしょ」

 小さながま口の小銭入れを取り出した女将は、私の手にそれを握らせた。

「チョコレートサンデーを買ってきてくれないかしら」
「……チョコレートサンデーって、アイスですか?」

 それ以外にないとわかりつつ、念のため訊ね返してみる。

「そうそれよ。毎年、誕生日に食べてるの。験担ぎみたいなものね」
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